放課後の科学部室に、三年生の三人が集まった。

 僕と木戸、そして四谷だ。

どうして共学校の部活なのに女子がいないのかという問題は、大変ゆゆしき事態ではある。

弁解させてもらうならば、全く入っていないわけではない。

 僕らの代にたまたま恵まれなかっただけだ。

 この場に三年生の三人以外を呼ばなかった理由は一つだ。

僕と木戸とで話し合った結果、不用意に他言していい内容ではないという結論に達したのだった。

「それで」

 四谷が呟いた。

ことのあらましは大体説明し終えていた。

 四谷はぼさぼさのロン毛男で、身長も三人の中で最も高く、テーラードジャケットなんていうおしゃれなものを着ている。

顔も悪くないし、頭もいい。

そして現科学部内で唯一眼鏡じゃないのも四谷だけだ。

部内で一番ゲームやアニメが大好きで、夜通し遊び倒しているくせに全く目が悪くならない化け物男である。

「透明人間を救う方法を、三人で考えようってわけか」

「そうだ」

 木戸が自信ありげに頷いた。

「一年生担当の教員に聞いたところ、確かに名簿には佐々木英美里という少女の名前があるし、入学式から一週間くらい経って、ぱったりと来なくなったそうだ。いじめに関しては認知していなかった。すっとぼけているのか、バレないようにいじめが行われていたのかは分からん」

『たぶん、先生は知らないと思います』

 かたかたとキーボードが動き、プロジェクターを通して部室の壁に文字が刻まれた。

 四谷はその奇怪な現象を初めて見るはずなのに驚かない。

それどころか「へえ、すげえ! 本当に動いた! どうやって打ってんの!?」と興味津々である。

こういうとき――ああ、だから科学部ってだけで皆に一歩距離を置かれるんだろうな、と僕は思う。

木戸が言う。

「英美里ちゃんは元に戻りたくないが、しかし消えてしまいたいわけではないと言っている。つまり、今回の事件が今までの自分から脱却する良い機会だと考えているというわけだ。しかしながら、我々は今まで透明人間という存在を認知しておらず、その存在が社会に溶け込める姿も想像しきれん。一年かけて、英美里ちゃんの理想とする透明人生を作り上げるための手助けをすることが、未知への挑戦を飽くなき使命とする科学部員としての宿命だと考えるわけである!」

 使命なのか宿命はっきりしろよ、と言いたくなるのを堪えて、僕は頷いた。

 四谷が、ホワイトボードの前に立っている木戸に向かって尋ねる。

「一ついいか」

「なんだ、四谷」

「一年でいいのか?」

 僕と木戸は、四谷を見た。

「人生を支えるってのがどれだけ大変なことか、お前も、俺たちも、理解しきれているとは思えないんだが」

「いい質問だ。それに対して、こういうのはどうかと考えているんだが」

 木戸が机に手をついて、身を乗り出した。

「佐々木英美里ちゃんを、今日から、澄川高校科学部の幽霊部員とする」

 なるほど、と僕は思った。

「科学部員の鉄則はなんだ?」

 木戸の問いかけに、四谷が答えた。

「現部員、卒業生、分け隔てなく、その人生における協力を惜しまないこと」

「そうだ。先ほどあげたテーマそのものは、一年間で一つの結論まで達することを目的としている。がしかし、その後も我々は英美里ちゃんの人生のための協力を惜しまない。なぜなら、彼女は俺たちの同窓生になるのだから」

 木戸は僕と四谷を見て言った。

「異論はあるか」

「ない。英美里ちゃんに異論がないならな」

 四谷の返事は早かった。そしてキーボードが動き、

『ありません』

 と文字が打たれた。

 

「しかし、」

 四谷が背もたれに体重を預けて言う。

「一体どうすればいいんだろうな。英美里ちゃんの頭の中に明確な目標や想像ができているなら話は別だが、さっきの話を聞いた感じだと、どうすればいいのか分からない状態なんじゃないか」

 木戸が、太い両手を広げて言った。

「一つずつ考えていくしかないさ。腹が減ったら飯を食う。金がなくなったら働く。透明人現になっちまったら、困ったことから解決していくしかないだろう」

 四谷が手を挙げる。

 木戸が顔を上げて、四谷に聞いた。

「なんだ、四谷」

「ちょっとした提案がある。その、なんだ、……俺たち、情報が少なすぎると思わないか」

 僕と木戸が顔を見合わせ、四谷を見た。

 四谷は、頬をかきながら言った。

「まず情報収集が先だろう。つまり、その……透明人間のスペックを、俺たちは知るべきじゃないか」

 僕と木戸は、頷き合う。

 確かにそうだ。僕らは科学の一番大事なプロセスである――観察をするのを忘れていたのだ。

 かたかたという音が響き、プロジェクターで文字が投射される。

『あの、スペックって、なんですか』

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