風に煽られるたび、僕は後ろめたさを抱き締めた。

昔から、風はあんまり好きじゃなかった。

上着を捲られるたびに、周囲の人に僕の内面を盗み見られるような気がしていたから。

それはなんだかとても後ろめたいことだった。

心の中と表に出す部分というのは誰でも違っているものだろうけれど、僕は誰かれ構わず内面を見られるのがあまり好きではなかった。

その、しかつめらしい感情を隠しながら歩くという行為は、幼い頃からとても後ろめたいものだという感じがしていた。

だから、力任せに僕をさらけ出そうとする風が、嫌いだった。

 

今日の風はそこまで強くはなかった。

けれど、僕が抱えていた女性ものの下着を奪う可能性は十分に秘めていた。

いま誰かに見つかったら大変まずいことになるな、と思いながら、僕はそそくさと部室へ向かうのだった。

 僕は旧校舎へ向かっていた。
 旧校舎と言っても建物が新旧独立しているわけではない。
 継ぎ足すように建てられた新校舎に対して、古くからある建屋の方をみんな旧校舎と呼んでいるのだ。

 旧校舎の方は、主に音楽室や理科実験室などの専門教室と、文化部の部室棟として使われている。
 僕は慣れた手つきで男子トイレの窓からよじ登って中に入入った。
 そして、科学部の部室へと向かった。扉を開けて中に入りながら僕は呟く。

「ただいまー」

 部屋の中には、一人だけ先客がいた。
 僕と同じ、三年生で部長の木戸彰だ。
 筋肉バカの木戸は、握力を鍛えながら、パソコン雑誌を読んでいるところだった。

「おう、おかえり、……って、なんだそれ」

「降ってきた」

「降ってきたあ?」

 僕が部屋の中央にある机の上に少女以外の全てを置く。
 木戸が雑誌を置いて駆け寄ってきた。
 科学部の部室は、教室を半分に割ったくらいの大きさだ。
 そこには机以外にもロッカーやホワイトボード、工作用の机にパソコンなど、様々なものが置いてある。
 何をする部活なのかとよく聞かれるのだが、決まって「何って、科学する部活だよ」と返答するのが僕らの美学だ。

 なぜ午前三時過ぎに忍び込んでまで集まっているのか。

それは、僕と木戸とで作戦会議をするためだった。

 僕と木戸を含む僕ら科学部三年生は、卒業を前に何かでかいことをしてやりたいと考えていた。
 受験勉強しろよと言いたくなるかもしれないが、こう見えて科学部は成績優秀な人間が集まっている。
 校内の進入ルートを確保している隙のなさと同様にして、試験勉強や大学入試への対策も、伝統的にばっちりなのだった。

 本来ならば春休み中に計画を立ててしまわなければならなかったのだ。
 しかし、木戸が「自転車旅行に行こうぜ!?」と言い出したせいで、僕らの春休みはまるまる全て、本州自転車一筆書き旅行に費やされてしまった。
 そのせいで、でかいことをしようというでかい口を叩きながら、僕らはろくな計画を立てることができなかったのである。
 そんなわけだから、部長の木戸と副部長の僕は、でかい口を叩いた手前、寝る間も惜しんで作戦会議をしなければならないという段に至ったのである。

「どっから盗んできたんだ」

「いや、盗んでねえよ」

 木戸はワンピースの襟首のタグを見る。
「LLかよ、でけえな」とか、「うお、生ブラジャーじゃん!」とか、「靴もでけえ。お前よりでかいんじゃない?」とか言っていた。
 木戸の太い指につままれた靴を受け取る。
 実際に自分の足と比べてみると、僕のほうがぎりぎり大きいくらいだった。
 僕は、男子にしては足の小さい方だ。
 それにしてもワンピースのサイズといい、小柄な女の子ではなさそうだった。

 木戸はいかにも科学部らしいチェックシャツとジーンズ姿で唸った。
 木戸は、服装だけなら引きこもりのオタクぽい。
 それなのに、内側から太い筋肉が張り出ているため、運動部が無理してオタクのコスプレをしているようにしか見えない。
 僕らの学校は私服校なので、僕もTシャツの上に薄手のジャケットを羽織っただけというラフな恰好だ。
 二人して眼鏡をかけているのも、二人して理系の例に漏れずド近眼だからである。

「お前、こんなでかい女の姉か妹、いたっけ」

「いや、いないけど」

「じゃあ、お母さんの?」

「いやだから盗んだわけじゃなくて、空から降ってきたんだって」

「空からこんなもんが降ってきてたまるか!」

「僕に言うなよ! 僕だって意味わかんねえんだから!」

 そのとき――がたんっ、と音がした。

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